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大阪地方裁判所 昭和34年(わ)2167号 判決 1961年10月17日

被告人 五島庸一

昭五・三・一九生 団体役員

主文

被告人を罰金二〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

訴訟費用中、証人野口良兼に対し昭和三五年一一月一四日支給した分を除き、その余を全部被告人の負担とする。

理由

(犯行に至るまでの経緯)

大阪府堺市教育委員会は、昭和三四年に入つてから、さきに施行の地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和三一年法律第一六二号)第四六条、地方公務員法第四〇条の規定により、同市の教職員に対し、勤務成績の評定(以下、単に勤評という)を実施しようとしていたが、これに反対する教職員等が、勤評の実施にあたる学校長ないし市教育委員会当局と対立し、同市内の学校内等に混乱が見られるようになつた。そこで、このような事態の正常化を図るため、並びに勤評の内容及びその実施について意見を交換するため、同年二月一三日午後一時から堺市南瓦町三丁目五一番地堺市役所内堺市教育委員会室において、同教育委員会と堺市教職員組合との間に交渉が開かれ、教育委員会側は、教育委員長斎藤堅太郎以下八名教職員組合側は、同組合書記長野口良兼以下九名が、それぞれ代表として出席した。

被告人は、昭和三三年四月から大阪府教職員組合の常任執行委員であつたものであるが、右交渉には、堺市教職員組合の代表の一名として、その場に臨んだ。

(罪となるべき事実)

被告人は、同日午後一〇時過ぎ頃、右交渉の席上、前記堺市教育委員長斎藤堅太郎が、「勤評は、よいものだと思つているから実施する。そのため多少の混乱があつてもやむを得ないが、これは実施の過程において解消すると思う。」旨の発言をしたのに対し、右発言は、混乱の事態を容認するもので重大であるとして、他の教職員組合側代表及び同室の内外に居合わせた多数の傍聴人と共に、斎藤に対し、右発言内容の文書化を要求し、併せて右発言の責任を追及する種々の質問を行つた。しかし、斎藤が、右発言の文書化を拒否したまま、目を閉じて沈黙の態度に終始したため、被告人は、斎藤のこの態度をもつて、故意に右追及を無視し、不誠意にも交渉に応じないものとして憤慨し、同日午後一一時三〇分頃、机を隔てて着席している斎藤の前方から、上半身を乗り出して、右手で同人が着用している背広の前えりをとり、「生きているのか、死んでいるのか。」と言いながら、数回しやくり引きに引つぱり、もつて同人に対し暴行を加えたものである。

(証拠の標目)(略)

(強要未遂の公訴事実を認めず、暴行のみを認めた理由)

本件公訴事実の要旨は、被告人は、昭和三四年二月一三日午後一時三〇分頃、前示堺市教育委員会室において、斎藤の前示発言に対して、「今言つたことを書け。書かないのなら、こちらが内容を書くから署名しろ。」と要求し、同人に対し用紙及び万年筆を突きつけて、「書け、書け。」と怒号し、同人の前の机を叩き、その背広のえりをつかんで引つ張り、「死んでいるのか、生きているのか。」と怒鳴りながら、その身体を前後に数回ゆさぶり、もつて同人の身体に危害を加えかねまじき態度と気勢を示して同人を脅迫するとともに、これに暴行を加え、同人に義務のないことを行わせようとしたが、同人が動脈硬化性高血圧症兼脳貧血症により、同日午後一二時頃同室から立ち去つたため、その目的を遂げなかつたものである、というのである。

しかしながら、本件で取調べた証拠によつては、被告人に前記認定の暴行の事実以外に脅迫の事実は認められない。ところで、刑法第二二三条の強要罪における保護法益は、意思決定に基ずく行動の自由にあると考えられるから、同条第一項にいう暴行は、相手方の自由な意思決定を拘束して、その行動の自由を制約するに足りる程度のものであることを要すると解すべきところ、被告人の前示暴行は、未だその程度に達していたものとは認められないうえに、被告人には右暴行を手段として斎藤に前記署名をさせようとする意図のあつた事実も又認められない。

それで、以下被告人の右暴行がなされた場の状況及び右暴行の程度を明らかにするとともに、被告人に強要の意図のなかつた点、更に脅迫の事実のなかつた点につき、順次説明を加えよう。

一、(一)前掲各証拠、及び被告人の司法警察員に対する供述調書、証人横山平の第七回、同野口良兼の第一四回、同辻田政信の第一五回各公判調書中の供述記載を綜合すると、前示交渉の席上、被告人を含む組合側の代表者は、斎藤の前記発言につき、同人に対し口々に右発言を文書で確認するよう要求したところ、斎藤がこれを拒否したため、被告人が組合用けい紙に右発言の要旨を認め、同席の野口がこれに万年筆を添えて斎藤の前の机上に置いたうえ、更に斎藤に対し口々に右書面に署名するよう要求するとともに、右発言が市教育委員長の言として著しく不穏当であるとして、その責任を追及する種々の質問を行なつた。しかし斎藤は、これに対して終始黙殺の態度を持したまま何ら応答しなかつたため、組合側代表者は、教育委員会側の他の代表者に対し、斎藤にその応答をさせるよう促したが、教育委員会側はこれに応ぜず、斎藤も依然目を閉じたまま永く沈黙を続けていた。このため被告人を含む組合側代表者は、斎藤の右態度には交渉に対する誠意が見られないとして、等しく憤慨していたことが認められる。この状況に引き続き被告人の前示暴行につながる右暴行直前の本件交渉の場の雰囲気について、組合側の代表者は、斎藤に対する発言を一時差し控え、沈黙している斎藤の応答を待つていたこと(証人岸本薫の第一二回、同林勲の第一三回各公判調書中の供述記載)及び教育委員会側の代表者中にも、被告人の斎藤に対する右暴行を見て、「斎藤は、これほど荒れているのに、どうしてこう何も言わないのかな」と思い(第九回公判調書中証人吉田猪一郎の供述記載)、或は、右暴行をもつて、「委員長寝ておるのか。こんな重大な問題に対して答えんというのはけしからん、というので引つ張つた」旨受け取つた(第八回公判調書中証人早勢弥一郎の供述記載)者のいることが認められるから、以上の各事実を併せ考えると、本件暴行の直前における両当事者間の問題の焦点は、組合側が斎藤に対し前示署名を要求する点から幾分遠ざかり、組合側の質問に応じないまま沈黙を守る斎藤の態度に憤慨し、これを非難するとともに、同人の応答を待つ点に集中されていたことが明らかである。(二)次に、右暴行自体態様及び程度について検討するに、右暴行は、前判示のとおり、被告人が机を隔てて着席している斎藤の前方から、上半身を乗り出して、右手で同人が着用している背広の前えりをとり、数回しやくり引きに引つ張つたものであるが、前掲各証拠によると、斎藤は右暴行を受けても元どおり眼を閉じたままであり、同人が体を反らすと、前えりをとつていた被告人の手が離れ、この離れたところで、被告人はその意図した暴行のすべてを終つている事実、現に、被告人と斎藤との間を隔てている机は、九〇センチメートルの幅があり、しかも斎藤は机からかなり離れて着席していたため、同人に対しては、被告人が机の上に上半身を乗り出して迫つても、その背広の前えりをとらえるのが限度の距離であり、したがつてとらえた「えり」を引つ張ることができるだけで、それも十分な力を加えることのできない姿勢であつた事実及び教育委員会側の他の代表者は、被告人の右暴行を制止することができない事情があつたとは考えられないのに、誰もその挙に出なかつた事実が認められ、以上の各事実からすると、右暴行の程度は軽微で、斎藤の意思を拘束して所期の署名をさせるため一般に必要と考えられる程度の暴行からは程遠いものであつたことが明らかである。しかして、右(一)及び(二)の各事実に併せて、前判示のとおり、被告人の右暴行時斎藤に対して発した言葉が、同人に前記署名を要求する趣旨の言辞とは直接関係のないものであつた事実及び前掲各証拠によつて認められるとおり、右暴行後間もなく前記文書に署名しないまま無言で退席した斎藤に対して、被告人を含む組合側代表者が何らの追及もしていない事実を考えると、被告人の右暴行は、組合側代表者の種々の質問に対し終始沈黙してこれに応答しない斎藤の態度に憤慨してなされたものに過ぎず、被告人には、右暴行を手段として、同人に前記署名をさせようとする意思のなかつたことが明らかである。このことは、前掲各証拠によつて認められるとおり、組合側の右署名要求が本件交渉の派生的な問題であつて、特に重要なものとは考えられないのに、報道関係者にも公開されていた右交渉の場で、格別分別を欠いていたとも見えない被告人が、強要罪に問われるが如き犯罪の危険を犯してまで、右署名の獲得を図つたとは考えられないところからも又容易に推認することができる。

もつとも、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書、第一六回公判調書中被告人の供述記載には、被告人は、眠つているかのような斎藤を起して交渉に参加させるため、同人に対し、「寝ているんですか、起きているんですか、話を聞いておられるんですか。」等言いながら、その「えり」を揺すつたに過ぎない、旨の供述があり、証人岸本薫の第一二回、同林勲の第一三回、同野口良兼の第一四回各公判調書中の供述記載にもこれと同趣旨の供述が認められるけれども、右は前記(一)に認定のとおり、被告人を含む組合側の代表者が、斎藤の態度に誠意がないものとして憤慨していた事実及び前判示どおり、被告人の本件暴行時に斎藤に対して発した言葉が、「生きているのか、死んでいるのか。」という内容であつた事実に徴して措信しない。なお、第七回公判調書中証人横山平の供述記載には、被告人は斎藤の「えり」をつかんで、十数回に亘つて引張つたり押したりし、その際「書け、書け。」と言つた旨の供述があるけれども、斎藤の「えり」をとつてから、同人を押すことは、前記認定の被告人と斎藤の位置関係から見て困難であると考えられるし、右引張つた回数については、第八回公判調書中証人早勢弥一郎の供述記載によつて認められる横山から斎藤の胸元辺への困難な見透し情況を、又右発言内容については、右横山の証言が尋問者の替る度びに裏腹となつていることをそれぞれ考慮し、にわかに措信できない。

二、次に、被告人に脅迫の事実がなかつた点を説明しよう。(一)被告人が組合用けい紙に斎藤の発言内容を書いたところ、野口良兼が右用紙に万年筆を添えて、斎藤の前の机上に置き、そのうえで被告人が、他の組合側の代表とともに、斎藤に対し、口々に右書面に署名するよう要求したこと及び(二)その後、被告人が、机を隔てて向い側に着席の斎藤に対し、その背広の「えり」をとり、「生きているのか、死んでいるのか。」と言つて、数回しやくり引きに引つ張つたことは、前記認定のとおりであり、又証人早勢弥一郎の第八回、同吉田猪一郎の第九回各公判調書中の供述記載を綜合すれば、(三)被告人が斎藤に対し、右書面に署名するよう要求していた際、時々机を叩いていたこと(但し、叩いた机の個所が、斎藤の直前であつたことを認めるだけの証拠はない。)が認められる。

ところで、右の各事実中、(二)の被告人が斎藤の「えり」をとつて引つ張り、「生きているのか、死んでいるのか。」と言つた点は、前記認定のとおり、沈黙に終始している斎藤の態度に憤慨してなされたもので、斎藤に対する署名の要求として行なわれた右の(一)、(三)の行為とはその動機の点で異なつているばかりでなく、時間的にも隔たりのあつたものであるから、これとは切り離して検討することが必要である。即ち、被告人の右(二)の行為は、前記のとおり、憤慨の結果生じたもので、他に右行為によつて斎藤を脅迫すべき意図で行われたものと認むべき事情はないから、右行為は、単に暴行としてのみ評価すべきである。次に、右(一)、(三)の各行為をみても、そこには黙示的にもせよ、相手に加うべき具体的な害悪は何ら表明されていないばかりではなく、その態様、程度も、せいぜい相手に対し自己の要求を言葉で強く押しつけたもの、或は、右の言葉、態度により相手に不安困惑の念を起させたものとして、暴力行為等処罰ニ関スル法律第二条第一項(或は、旧警察犯処罰令第一条第四号、改正刑法仮案第四〇一条第一項)にいう「強談威迫」の概念にあてはまる程度のものと解される余地あるものに過ぎず、とうてい刑法第二二二条、第二二三条にいう「脅迫」の概念にあてはまるものとは考えられない。けだし同条に「脅迫」とは少くとも相手を畏怖せしめるに足る程度のものでなければならないからである。

したがつて、被告人には訴因にいう如き脅迫の事実もなかつたものと認めざるを得ない。

以上認定のとおりであつて、この認定を覆し公訴事実の如き被告人の強要未遂の事実を認めるに足るだけの確証はないから、本件訴因の範囲内で判示の如き暴行の事実のみを認定した。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人の本件所為は、

一、団体交渉権の行使中の行為であるから正当な行為である。すなわち、本件所為は、地方公務員法第五五条に基く交渉の席上なされたものであるところ、右交渉は、団体交渉とその性質を異にするものではないから、被告人の行為に多少の激しさがあつたとしても、それは団体交渉を無視せんとする相手方に対する対抗策上とられたもので、何ら違法性がない、

二、違法な勤評が正に実施されようとするときに、これを阻止するため、右勤評の実施責任者の責任ある発言を、その場で確認し、これを後日の参考にしようとして行なつたもので、正当防衛行為である、と主張する。

それで、先ず一、の正当行為の主張について判断を加える。

本件堺市教育委員会と堺市教職員組合との話合いは、勤評自体の内容及びその実施についての意見の交換並に勤評の実施を巡つて生じている学校内等における混乱の解決等を目的として行なわれたものであるから、右は、或は勤評が人事管理の基礎資料として、将来の勤務条件に密接に関連する意味において、或は職場環境の改善を図る意味において、いずれも職員の勤務条件に関するものとして、地方公務員法第五五条第一項にいう「交渉」として行なわれたものと認められる。ところで、「右交渉は、同法第五五条第一項但書により、団体協約締結権を含まないものとされるとともに、同法第三七条により争議権等も否定されているため、右交渉の実質的内容は、憲法第二八条にいう団体交渉権と著しく異つているものといわねばならない。けだし、憲法にいう団体交渉権は、自主的に労使関係を規律すべき団体協約(労働協約)を、労使対等の立場で締結することに主眼を置いて保障されているものであり、争議権は、かかる団体交渉権の行使を実効あらしめるための手段として保障されているものであるからである。しかしながら、右地方公務員法にいう交渉の特殊性は、地方公務員の公務員たる職務内容の特殊性にかんがみ、憲法第二八条にいう勤労者として地方公務員に対しても同条で保障されている右団体交渉権が、公共の福祉のための制限を受けた結果生じたものに外ならないから、地方公務員法にいう交渉も、同法第五二条に規定する団結権と同様、憲法第二八条に由来するものというべきである。したがつて、右地方公務員法にいう交渉は、団体交渉権としての主たる目的である団体協約締結権を伴わず(即ち、一定制限のもとに、書面による協定締結権が認められるに過ぎない。)またその手段である争議権を否定されてはいるけれども、団体の組織を背景として、相手方と対等の立場に立つて、勤務条件等の改善のために折衝することができるかぎりにおいて、いわば限定された団体交渉権として、地方公共団体の当局との間において、権利として保障されているものであり、地方公共団体の当局も、誠実に右交渉に応ずべき義務を負担するものといわねばならない。したがつて、かかる交渉権の行使自体及びこれに当然随伴しその範囲内にあると認められる行為は、制限された範囲内ではあるが、当然労働法的な考慮の下に、それが社会通念上一般に許容されるものと認められる限りにおいて、何等違法の問題を生じないわけである。

ところで、本件被告人の斎藤に対する暴行は、被告人らの質問に応答しない斎藤の態度に憤慨して、むしろ、被告人より積極的になされたものであるが、果してかかる行為は、斎藤が長時間にわたつて沈黙の態度に終始し、被告人らが質問に応ずるよう促しても遂にこれに応じなかつたこと、同人が、地方公共団体の当局の代表者として、誠実に右交渉に応ずべき義務を負担しているものであることを考え併せても、なお右交渉権の適法な行使の範囲内にあるものと認めてよいものであろうか。以下この点につき検討を加えよう。証人早勢弥一郎の第八回、同吉田猪一郎の第九回、同斎藤堅太郎の第五回、同岸本薫の第一二回各公判調書中の供述記載を綜合し、本件交渉の経過をみると、当初交渉の場に出席すべき双方の代表は各一〇名とし、会場内外の秩序は双方責任を持つて保つ旨の取り決めがなされていたのに、組合側は、その代表一〇名の外に一〇名前後の傍聴人を会場に入れて自席の後に立たせ、これと会場外の多数の傍聴人とが、教育委員会側の代表の発言に対し、激しい野次を浴せるままに放置し、交渉の場の雰囲気を喧騒ならしめていたことが明らかであり、又、交渉の主題として採用した勤評については、組合側は、その実施に絶対反対の立場を堅持し、この立場から、教育委員会側の態度を批判することが主であつたため、教育委員会側との間に交渉の余地を見出し難い状況に置き、本交渉における派生的な問題にすぎない斎藤の前記発言についても、組合側は、これを過大に取り上げ、同人に対してその文書による確認及び右発言に対する責任を余りにも永く又執ように追及する態度に出ていたことが認められる。果してそうだとすると、長時間にわたりかかる交渉に臨んでおり、しかもこれらの事情のもとに、遂に被告人らの質問に応じなかつた斎藤の前記認定の如き沈黙の態度は、同人が負担する誠実に本件交渉に応ずべき義務に違反したものとはいえないし、まして、被告人の有する前記の交渉権を無視した態度とも決めがたい。すると、この斎藤の態度に憤慨してなした被告人の本件の如き積極的な暴行の所為は、上記の如き労働法的考慮を払うとしても、なお被告人の右交渉権行使の範囲を著しく逸脱した違法のものと断ぜざるを得ない。けだしかかる交渉の場に法が期待するのは、冷静なる態度と誠実にして熱意ある説得であり、決して過熱した感情や、盲目奔放な暴力ではないからである。したがつて、弁護人の右正当行為の主張はこれを採用することができない。

次に、二、の正当防衛の主張について判断する。

弁護人が主張する正当防衛の趣旨は、必ずしも明瞭でないけれども、前記認定のとおり、被告人は、斎藤の態度に憤慨して本件の積極的な暴行に及んだもので、権利に対する急迫不正な侵害も存在せず、又被告人には何等の防衛の意思もなかつたものであるから、その余の点を判断するまでもなく、右主張は失当である。

(法律の適用)

法律に照らすと、被告人の判示斎藤堅太郎に対し、その前えりをとつて、引つ張つた所為は、刑法第二〇八条、罰金等臨時措置法第二条、第三条に該当するので、暴行の程度その他諸般の情状を考慮のうえ所定刑中罰金刑を選択し、その罰金額の範囲内で被告人を罰金二〇〇〇円に処し、刑法第一八条により、右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文により、主文掲記のとおり、被告人の負担とする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 西尾貢一 萩原寿雄 井上清)

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